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運用・体制づくり

無料でできる範囲の管理台帳の作り方

台帳は買うものではなく、まず作るものです。月に数件から十数件の規模なら、Excelと共有フォルダで足ります。

含有化学物質の管理を任された人が最初に検索するのは、たいてい「管理システム」です。検索結果にはベンダーのページが並びます。しかし月に数件から十数件の調査依頼に対応している段階では、買う理由がありません。必要なのは、Excelのブックが1つと、社内の共有フォルダが1つです。

ただし、作り方を間違えると半年でどうにもならなくなります。つぶれる原因はほぼ決まっていて、1つのファイルに全部を詰め込むこと、担当者のPCに置くこと、ファイル名に日付を付けて増殖させることの3つです。ここでは、その3つを最初から避ける形で台帳を組み立てます。

台帳が受け持つ仕事は3つだけ

台帳の役割は、装飾的な管理表を作ることではありません。次の3つに答えられれば十分です。

ひとつ、取引先から「この品番のSVHC含有状況は」と聞かれたときに、根拠まで含めて30分以内に出せること。

ふたつ、新しい物質が規制に追加されたときに、影響する自社品番を機械的に絞り込めること。

みっつ、担当者が異動しても、なぜその判断になったかが後任に読めること。

この3つを満たすために必要なのは、見た目ではなく、データの分け方です。業務全体の位置づけは含有化学物質管理とは何をすることか、業務の全体像にあります。

6つのシートに分ける

1つのシートに全部を書くと、品番が増えた瞬間に行が爆発します。理由は単純で、1つの品番が複数の部位を持ち、1つの部位が複数の材料を持ち、1つの材料が複数の物質を含むからです。階層が違うものを同じ表に並べると、同じ情報を何度も書くことになります。

#シート名1行が表すものこのシートが答える問い
1品目マスタ自社の品番1つどの品番が、どの取引先に、どの仕向地向けに出ているか
2構成表親品番と子品番の組み合わせ1つこの製品は何から組み立てられているか
3部位と材料購入品の部位1つその部品のどこが、どの材料でできているか
4サプライヤー回答台帳仕入先から受け取った回答1件いつ、誰から、どの版の情報をもらったか
5判断記録品番と法規制の組み合わせ1つ誰が、いつ、何を根拠に適合と判断したか
6提出履歴取引先へ出した提出1件いつ、誰に、どのファイルを出したか
最小構成の6シートと、それぞれが答える問い

シートを分けるのは面倒に見えますが、逆です。分けておけば、SVHCが追加されたときに触るのはシート3とシート5だけで済みます。混ぜてあると全部を読み直すことになります。

各シートの列

列名はそのまま使えます。増やすより、まず足りるかどうかを試してください。

1. 品目マスタ

品番、版数、品名、製品分類、出荷先取引先名、仕向地、量産開始日、廃番日、担当部門、備考。

仕向地の列を最初から持つことが肝心です。EU向けなのか国内専用なのかで、必要な調査の範囲が変わります。対象範囲の決め方は自社は何を管理すればいいのかにあります。

2. 構成表

親品番、親版数、子品番、子版数、員数、単位、購入区分(内製/購入/支給)、適用開始日、適用終了日。

設計変更で構成が変わるので、適用開始日と終了日の列は省かないでください。ここを省くと「去年出した回答は、どの構成に対するものだったか」が分からなくなります。

3. 部位と材料

部位ID、対象品番、部位名、材質名、加工・表面処理(めっき、塗装、接着剤など)、質量、質量単位、均質材料かどうか、情報の出所、最終更新日。

めっき、塗装、接着剤、ラベルの印刷インキは、部位として立てておかないと必ず漏れます。どこで単位を切るかは均質材料の単位をどこで区切るかを見てください。

4. サプライヤー回答台帳

回答ID、仕入先名、仕入先担当者、対象品番、対象部位ID、様式(chemSHERPA-AI/CI/自社様式/SDS/不使用証明書)、受領日、ファイル名、管理対象物質リストの版、依頼日、督促回数、有効期限、状態(未依頼/依頼済/督促中/受領/不備差戻し)。

督促回数と状態の列があるだけで、進捗会議が要らなくなります。返ってこない先への文面は返ってこない調査依頼の督促テンプレート3段階にあります。

5. 判断記録

判断ID、対象品番、対象版数、法規制(EU RoHS/REACH第33条/各社グリーン調達基準など)、判断日、判断者、判断結果(適合/非適合/判断保留)、根拠となる回答ID、閾値の考え方、備考。

根拠となる回答IDの列が、この台帳でいちばん価値があります。判断とその根拠が結び付いていないと、監査で説明ができません。誰が判断を負うのかは遵法判断は誰がするのか、という最大の誤解に書きました。

6. 提出履歴

提出ID、提出日、提出先取引先、対象品番、対象版数、提出様式、提出ファイル名、依頼元の受領可否、差戻し理由、再提出の提出ID。

キーの設計でほとんどが決まる

台帳が壊れるかどうかは、キーをどう置くかでほぼ決まります。

品目のキーは、品番だけにしないでください。品番プラス版数で1行です。品番だけをキーにすると、設計変更のたびに過去の回答が上書きされ、「いつの構成に対する判断だったか」が消えます。運用では、表示用に「ABC-1234 / Rev.C」のような結合列を1つ作っておくと、他のシートから参照しやすくなります。

部位には、部位IDという独立した番号を振ってください。「めっき」「塗装」といった名前をキーにすると、同じ部品に2種類のめっきがあるときに衝突します。部位IDは連番で構いません。ただし一度振ったら変えないことです。

サプライヤー回答にも回答IDを振り、判断記録からはその回答IDを参照します。ファイル名で参照すると、ファイル名が変わった瞬間に切れます。

数式は1種類しか要らない

凝った関数は不要です。別シートの値を引くための参照(VLOOKUP または XLOOKUP)と、絞り込みのためのフィルタがあれば足ります。マクロを書き始めた時点で、その台帳は書いた人しか触れないものになります。後任が読めない台帳は、無いのと同じです。

やってはいけない5つのこと

1つのファイルに全部を入れる。品目も構成も回答も判断も1シートに並べると、同じ品番が何十行にもなり、1か所直すと他が食い違います。上の6シートに分けてください。

担当者のPCに置く。異動と退職で消えます。壊れ方としてはこれが最も多い。共有フォルダかクラウドストレージに置き、少なくとも2人が編集できる状態にします。

ファイル名に日付を入れて増殖させる。「台帳_20260415_最新_修正版.xlsx」が10個並ぶと、どれが正なのか誰にも分かりません。正本は常に1つ、名前は固定です。

セルを結合する。見た目は整いますが、並べ替えもフィルタも集計もできなくなります。結合したい気持ちが出たら、それは1行に複数の情報を詰め込んでいる合図です。行を分けてください。

手入力で同じ値を繰り返す。仕入先名を毎回打つと表記ゆれが生まれ、「株式会社」の位置が違うだけで別会社として集計されます。入力規則のリストか、マスタシートからの参照を使ってください。

SVHCが追加されたときに1日で終える持ち方

SVHC候補リストは2026年2月4日の第35次追加で253エントリーになりました(ECHA)。追加は年に数回発生します。そのたびに全品番を調べ直していては終わりません。

追加が公表されてから1日で影響調査を終えられるかどうかは、当日の頑張りではなく、事前に台帳が持っている情報で決まります。必要なのは次の4つです。

必要なもの置き場所無いとどうなるか
仕向地の列(EU向けかどうか)品目マスタ全品番が調査対象になり、初日で終わらない
部位ごとの材質と表面処理部位と材料どの部位を疑うべきか絞れず、全部を仕入先に聞くことになる
CAS番号つきの成分情報、または回答ファイルの所在サプライヤー回答台帳物質名で検索できず、ファイルを1つずつ開くはめになる
仕入先の担当者名とメールアドレスサプライヤー回答台帳照会メールの宛先集めだけで半日が消える
SVHC追加時に1日で回すために、台帳が持っていなければならない情報

つまり、平時にやっておく仕事は「仕向地を埋める」「部位を割る」「連絡先を書く」の3つです。これだけで当日の作業が数時間に縮みます。当日の時間割はSVHCが追加された時の影響調査を1日で終える手順にあります。

管理対象物質リストの版も、回答台帳に記録してください。2026年9月時点の最新はVer.2.13.00です(CMPコンソーシアム、2026年4月公開)。版が古い回答は、追加物質について何も答えていないことになります。版の見方は管理対象物質リストはどこを見ればいいのかにあります。

ファイル運用のルールは3つで足りる

置き場所。共有フォルダのルート直下に「含有化学物質」フォルダを1つ作り、その下を「01_台帳」「02_受領ファイル」「03_提出ファイル」「04_様式・手順」の4つに分けます。深い階層は作らないでください。探せなくなります。

命名。受領ファイルと提出ファイルは「日付8桁_相手先_品番_版数.拡張子」に統一します。例として「20260415_A社_ABC1234_RevC.shai」です。台帳本体だけは日付を付けず、名前を固定します。

版の残し方。台帳本体の名前は変えず、月に1回、決めた日に「_archive」フォルダへコピーを取ります。コピー側にだけ日付を付けます。これで、正本は常に1つ、過去は遡れる、という状態になります。編集履歴が残るクラウドストレージを使っているなら、この月次コピーも省けます。

限界が来るサイン

Excel台帳は万能ではありません。次のどれかが出たら、やり方を変える時期です。

同じ品番についての問い合わせに答えるのに、複数のファイルを開いて突き合わせている。

ファイルが重く、開くのに時間がかかる。目安として構成表が数万行を超えるあたりです。

2人以上が同時に編集したがり、「誰かが開いています」が日常的に出る。

前回の判断がなぜその結論だったのか、書いた本人が思い出せない。

取引先ごとの様式変換を毎回手作業でやっていて、その作業だけで月に何十時間か使っている。

このうち1つか2つなら、台帳の作り方を直せば済みます。3つ以上が同時に出ていて、それが半年以上続いているなら、次を考える段階です。判断の基準は月10件以下ならシステムは要らないに書きました。逆に言えば、サインが出ていないうちは何も買う必要がありません。

未確認

ここに示したシート構成と列名は、実務で必要になる項目から組み立てた一例です。業界団体や官庁が標準として定めた台帳様式ではありません。自動車業界のJAMA・JAPIA統一データシートのように、業界で決まった様式が別に存在する場合は、そちらの項目に合わせてください。

Excelではなく、Googleスプレッドシートでもいいですか

同じ考え方で作れます。同時編集と変更履歴が標準で付く点は有利です。注意点は2つあり、1つは行数が増えると関数の再計算が遅くなること、もう1つは社外へのデータ持ち出しを禁じる社内規程に触れる場合があることです。社内の情報管理ルールを先に確認してください。どちらを使うにせよ、シートの分け方とキーの設計は変わりません。

過去のデータがバラバラで、どこから手を付ければいいか分かりません

全部を遡って整えようとすると終わりません。現在も出荷している品番だけを対象に、品目マスタと部位と材料の2シートだけを先に作ってください。廃番品は後回しで構いません。過去の提出ファイルは、まず1か所に集めて日付順に並べるだけで十分です。整形は、次に調査依頼が来た品番から順にやると無理がありません。

台帳のテンプレートはどこかで配布されていますか

公的機関が配布する汎用のExcel台帳様式は、2026年9月時点で確認できていません。全国中小企業団体中央会の実践マニュアルと経済産業省の手引きには、管理すべき情報の考え方が載っていますが、そのまま使える表形式のファイルではありません。このサイトでも配布資料を用意しています。ただし、自社の品目構成に合わせて列を足し引きすることは前提になります。

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