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遵法判断は誰がするのか、という最大の誤解

仕入先が「問題ありません」と書いてくれた。それで自社の判断が済んだことにはなりません。

chemSHERPAには成分情報と遵法判断情報という2種類の情報が入ります。この2つの役割を取り違えると、誰も判断していない製品が出荷されます。

多い誤解は「上流が遵法判断情報に問題なしと書いているのだから、自社はそれを転送すればよい」というものです。上流が判断しているのは上流が供給する範囲についてであり、自社が組み立てた完成品についてではありません。

2種類の情報の役割

成分情報遵法判断情報
何を書くか含まれている物質と、その量法規制に照らした適合の判断結果
誰が持っている情報かその部品・材料を作った者その情報を使って判断した者
chemSHERPA-AI入る入る
chemSHERPA-CI入る入らない
上流から下流へ渡るか渡る渡るが、下流の製品の判断にはならない
成分情報と遵法判断情報

成分情報は事実の伝達です。「この材料には物質Xが0.3%入っている」。これは作った者しか知りません。

遵法判断情報は評価です。「この規制に照らして問題ない」。評価の対象はあくまで、その者が供給している範囲です。

なぜ自社の判断が必要になるのか

閾値の判定が、組み立てると変わるからです。

たとえばREACH規則第33条は、候補リスト収載物質を0.1重量%超で含有する成形品について情報伝達義務を課します。この0.1%の分母が何かという論点があり、成形品を組み立てると分母が変わります。

段階対象物質Xの量全体の重量濃度
部品単体ガスケット0.08g100g0.08%
組立後ガスケットを含むユニット(他部品を含む)0.08g400g0.02%
別の組立小型ユニット0.08g60g0.13%
組み立てると判定が変わる例

同じ部品でも、何と組み合わせるかで濃度が変わります。したがって上流が「0.08%なので閾値未満」と判断していても、自社の製品では超えることがある。逆もあります。分母をどう取るかについては0.1%の分母は何か。均質材料の切り方を参照してください。

自社が負う範囲

整理すると次のようになります。

  1. 自社が製造・加工した部分の成分情報:自社が把握して伝える
  2. 仕入れた部品・材料の成分情報:仕入先から取得する。取得できない場合の扱いを決める
  3. 自社が出荷する製品についての遵法判断:自社が行う
  4. 判断の根拠の保存:自社が行う

3が本題です。仕入先の遵法判断情報は判断の材料であって、自社の判断の代替にはなりません。

判断の実例:ねじ1本で変わる

具体的に追ってみます。あるユニットに、次の部品が使われているとします。

部品重量候補リスト収載物質の含有
樹脂ケース220g含有なし
基板90g物質Aを0.02g(基板単体で0.02%)
ガスケット12g物質Bを0.05g(ガスケット単体で0.42%)
六角ボルト4本28gめっき層に物質Cを0.01g
合計350g
判断の対象となるユニットの構成

ここで問われるのは、0.1%の分母をユニット全体(350g)に取るのか、部品ごとに取るのかです。REACH規則第33条の運用では、成形品の単位ごとに判定します。上の例ではガスケット単体で0.42%となり、閾値を超えます。ユニット全体で割って0.014%だから問題なし、とはなりません。

ボルトのめっきも同様で、めっき層という均質材料の単位で見ます。ボルト全体の重量で割ると薄まりますが、それは正しい取り方ではありません。この切り方については均質材料の単位をどこで区切るかに具体例を並べました。

つまり、上流が「ユニットとして0.014%です」と回答してきたら、その分母の取り方を確認する必要があります。回答を鵜呑みにせず、分母を聞く。これが自社の判断の中身です。

誰が判断するのかを社内で決める

実務では「担当者が調べて、誰かが承認する」形になります。決めておくべきなのは次の3点です。

  • 判断者(役職で決める。個人名で決めると異動で止まる)
  • 判断の基準(どの法規制の、どの版に照らすか)
  • 例外時のエスカレーション先(閾値超過が疑われたとき、誰に上げるか)

判断者を品質保証責任者に置く会社が多いですが、設計変更の権限を持つ設計部門長に置く会社もあります。どちらでも構いません。決まっていないことが問題です。

仕入先が「判断できない」と言ってきたら

よくあります。上流が小規模で、社内に判断できる人がいない場合です。

このときの選択肢は3つです。

  • 成分情報だけもらい、判断は自社で行う(最も現実的)
  • 不使用証明書で代替する。ただし対象物質の範囲を明記してもらう
  • 分析で確認する。費用はRoHS10物質で4万円台、SVHC全項目で20万円前後

3つ目は最後の手段です。費用の相場はchemSHERPA作成代行はいくらで何をしてくれるかと分析ラボの公開料金を参照してください。

上流・自社・下流の役割を1枚で

サプライチェーンのどこに立っているかで、やることが変わります。自社の位置を確認してください。

立場成分情報遵法判断典型的な詰まり
素材メーカー(化学品を供給)自社で把握し、chemSHERPA-CI で伝える成形品ではないため遵法判断情報は入らない配合の機密と、開示要求の板挟み
部品メーカー(成形品を供給)材料メーカーからの情報を足し上げる自社が供給する部品について判断する材料メーカーが成分を開示しない
組立メーカー部品メーカーからの情報を足し上げる自社が出荷する完成品について判断する部品点数が多く回収が終わらない
商社・代理店製造元の情報を取り次ぐ自社では判断できないことが多い製造元に問い合わせても返ってこない
最終製品メーカー全体を統合する市場に対する責任を負う上流の判断をそのまま信じてしまう
立場ごとの役割

化学品を供給する立場では、chemSHERPA-CI に遵法判断情報の欄がないことに戸惑うことがあります。これは仕様どおりで、化学品は用途によって適合の可否が変わるため、判断は使う側が行うという整理になっています。

「問題ありません」という回答の危うさ

仕入先から一行だけ「問題ありません」と返ってくることがあります。この回答には、次の情報が欠けています。

  • どの法規制に照らしたのか
  • どの版の物質リストを使ったのか
  • 対象は部品全体なのか、特定の部位なのか
  • 閾値の分母を何に取ったのか

これらが分からない回答は、自社の判断の根拠になりません。記録に残しても、監査で「根拠は」と聞かれたときに説明できない。回答様式を指定して、上の4点が埋まる形で返してもらうほうが、あとで手戻りがありません。

依頼文に埋め込む一文の例を挙げます。

ご回答にあたっては、適用した法規制名と管理対象物質リストのバージョン、判定の対象範囲(部品全体か部位か)を明記してください。

この一文があるかないかで、返ってくる回答の質が変わります。督促の段階ごとの文面は返ってこない調査依頼の督促テンプレート3段階にまとめています。

判断を止めてよい場合

情報が揃わないときに、無理に判断しないという選択もあります。取引先に対して「この部位については情報が取得できていないため、判断を保留している」と明示して提出するほうが、根拠のない適合表明より安全です。

保留を明示する場合は、保留の範囲と、いつまでに解消する見込みかをセットで伝えます。期限の見通しがないと、相手側で受入判断ができません。

判断の記録に残すもの

監査で再現できる形にします。最低限、次の4つを1セットにします。

  1. 判断日
  2. 適用した法規制と、その版(例:管理対象物質リスト Ver.2.13.00)
  3. 判断の対象(品番、構成、分母の取り方)
  4. 根拠資料(仕入先の回答、分析報告書、適用除外コードの根拠)

2の「版」が抜けやすい。SVHCは追加されるので、いつ時点のリストで判断したかが分からないと、再判断が必要かどうかも分かりません。

仕入先の遵法判断情報が「非対応」になっていました

その仕入先が判断していないという意味です。成分情報が入っていれば、自社で判断できます。成分情報も不十分な場合は、仕入先に成分の開示を求めるか、不使用証明書で範囲を限定するか、分析にかけるかの選択になります。判断せずに提出するのは避けてください。

商社経由で買っている部品の判断は誰がしますか

商社は成分情報を持っていないことが多く、製造元に問い合わせる仲介になります。商社の遵法判断情報が入っていても、それは製造元の判断を転送しているだけの場合があります。自社の製品についての判断は、やはり自社が行います。

判断を間違えた場合、誰の責任になりますか

市場に製品を出す事業者の責任です。仕入先の情報が誤っていた場合、仕入先に対する求償の問題は生じますが、市場に対する責任が消えるわけではありません。だからこそ、根拠と判断日を記録に残しておくことが実務上の防御になります。

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