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0.1%の分母は何か。均質材料の切り方

同じ「0.1%」という数字でも、何で割るかが違えば答えが変わります。まず分母から確認してください。

含有率の計算でつまずく原因のほとんどは、物質の量ではなく分母です。分子である「物質が何グラム入っているか」は仕入先の回答に書いてあります。分母である「何グラムで割るのか」は、どこにも書いていないことがあります。

そして、REACH規則とRoHS指令とでは、この分母の取り方が違います。片方の感覚でもう片方を計算すると、桁がずれます。

2つの0.1%は別物

REACH規則 第33条EU RoHS指令(2011/65/EU)
閾値0.1 重量%(超)0.1 重量%(カドミウムのみ 0.01 重量%)
分母の単位成形品(article)均質材料(homogeneous material)
対象物質SVHC候補リスト収載物質(2026年2月4日の第35次追加で253エントリー)制限10物質(鉛・水銀・カドミウム・六価クロム・PBB・PBDE+フタル酸エステル4種)
義務の中身供給先への情報伝達、消費者からの請求への回答上市の禁止
ECHAの表現in a concentration above 0.1% weight by weight (w/w)
REACH第33条とRoHS指令で分母が違う

REACH第33条は、候補リスト収載物質を0.1重量%超で含有する成形品をEU市場に供給する事業者に、情報伝達義務を課します。ここでの単位は成形品です。

RoHS指令は均質材料単位です。均質材料とは、機械的な作業では分けられない最小の単位を指します。分け方そのものについては均質材料の単位をどこで区切るかに具体例を並べました。

同じ製品でも、RoHSのほうが分母が小さくなります。分母が小さいということは、濃度が高く出るということです。RoHSで引っかかる部位がREACHでは薄まって見える、という逆転はここから生まれます。

ねじ1本で計算してみる

架空の例を使います。実在の製品の測定値ではなく、計算の手順を示すために筆者が数字を作ったものです。

ニッケルめっきを施した鋼製ねじを1本、次の構成と仮定します。

部位重量対象物質の量その部位で割るとねじ全体で割ると
母材(鋼)4.80 g鉛 0.0024 g0.050 %0.049 %
めっき層(ニッケル)0.09 g鉛 0.00018 g0.200 %0.0037 %
ねじ全体4.89 g鉛 0.00258 g0.053 %
架空のねじ1本の構成と、分母の取り方による濃度の違い

RoHSで見るべきなのは、母材の0.050%とめっき層の0.200%です。めっき層が閾値を超えています。ねじ全体で割った0.053%を見て「0.1%未満だから適合」と判断すると、超過を見落とします。

母材とめっき層は、研削や剥離という機械的な作業で分けられます。分けられる以上、別々の均質材料です。この判定の理屈はRoHSとREACHとSVHC、関係を1枚で理解するにも触れています。

めっき層だけで計算するときの落とし穴

めっき層は薄く、重量が小さい。だから分母が小さく、わずかな量でも濃度が跳ね上がります。

めっき厚めっき層の重量(想定)六価クロム量めっき層での濃度判定(RoHS 0.1%)
1 µm0.030 g0.000020 g0.067 %閾値未満
0.5 µm0.015 g0.000020 g0.133 %超過
0.3 µm0.009 g0.000020 g0.222 %超過
架空の例:めっき層の厚みを変えると濃度がどう動くか

同じ量の物質でも、めっきを薄くすると濃度が上がります。工程変更でめっき厚を落としたら閾値を超えた、という事態が理屈のうえでは起こり得ます。工程条件が変わったときに含有率を再確認する理由がここにあります。

なお、上の重量は面積や比重を仮置きした概算であり、実際のめっき層重量は形状と条件で変わります。

積層板(複合材)をどう切るか

プリント基板に使うガラスエポキシ積層板は、ガラスクロスと樹脂と銅箔からできています。

重量対象物質その層での濃度
銅箔(表)1.2 g
樹脂含浸層6.5 g臭素系難燃剤0.0091 g0.140 %
ガラスクロス3.8 g
銅箔(裏)1.2 g
積層板全体12.7 g臭素系難燃剤0.0091 g0.072 %
架空の積層板における分母の取り方

銅箔は剥離できるので別単位です。問題は樹脂とガラスクロスで、含浸して硬化した後は機械的に分けられません。分けられない以上、樹脂含浸層とガラスクロスを合わせて1つの均質材料と見る考え方があります。その場合の分母は10.3 gとなり、濃度は0.088%になります。

つまり、切り方の解釈次第で0.140%にも0.088%にもなります。

未確認

含浸硬化した樹脂とガラスクロスを1単位と見るか2単位と見るかについて、EU RoHS指令本文およびFAQにおける明示的な規定を本稿執筆時点で確認できていません。判断が分かれる場合は、分母を小さく取る(濃度が高く出る)側で評価しておくほうが安全側です。

塗装品の場合

塗装された板金は、素地の金属と塗膜に分かれます。塗膜は剥離できるので別単位です。

さらに、下塗り・中塗り・上塗りと重ねている場合、それぞれが別の均質材料になり得ます。層ごとに配合が違うからです。実務では塗料メーカーから層ごとの情報をもらえないことが多く、塗膜全体を1単位として扱う回答が返ってきます。

このとき確認したいのは、その回答が層ごとの最悪値なのか、塗膜全体の平均なのかという点です。平均値で0.1%未満でも、特定の層だけで超えていることがあります。

間違えやすい3パターン

実際に差戻しの原因になるのは、次の3つです。

パターン何をしたか何が起きるか
製品全体で割る完成品の総重量を分母にする分母が大きすぎて、ほぼすべてが閾値未満になる。超過の見落とし
部品重量で割るねじ1本、コネクタ1個の重量を分母にする均質材料より1段大きい。めっき層や被覆層の超過を見落とす
めっき層を母材に溶かして割る表面処理の物質量を、部品全体の重量で希釈して計算する上と同じ方向の誤り。めっきほど薄い層で影響が大きい
よくある分母の取り違え

3つとも、分母を大きく取る方向の誤りです。分母が大きいほど濃度は低く出て、判定は「適合」に寄ります。そして、それは見逃しです。

逆に分母を小さく取りすぎる誤りは、実務ではあまり見かけません。過剰に厳しく判定して、不要な代替材の検討を始めてしまうという損はありますが、市場に不適合品を出すことはありません。迷ったときにどちらへ寄せるかの答えはここにあります。

REACH側の分母はもう一段ややこしい

RoHSは均質材料と決まっています。REACHは成形品単位ですが、組み立てられた製品の中の1つ1つの部品も、それぞれが成形品です。

そのため、完成品に組み込まれた後も、部品ごとの濃度で判定します。ユニット全体の重量で割って薄める計算は成り立ちません。この考え方の実例は遵法判断は誰がするのか、という最大の誤解の中でも扱っています。

構成重量SVHCの量その成形品での濃度ユニット全体で割ると
樹脂ケース220 g0 g0 %0 %
ガスケット12 g0.050 g0.417 %0.014 %
基板90 g0.020 g0.022 %0.006 %
ユニット合計350 g0.070 g0.020 %
架空のユニットにおけるREACH第33条の判定

ガスケット単体で0.417%です。ユニット全体で割った0.020%を根拠に「閾値未満」と答えると、第33条の情報伝達義務を果たしていないことになります。

chemSHERPAの入力欄で何を書くか

chemSHERPA-AIでは、構成部品と材質を階層で登録し、材質ごとに含有物質と含有率を入れます。つまり、ツールの構造そのものが均質材料単位の入力を前提にしています。

入力時に迷うのは、仕入先からもらった回答が部品単位の濃度だったときです。そのまま材質の欄に入れると、分母が違う数字を入れることになります。この場合は、材質ごとの内訳を出し直してもらうのが本筋です。出てこない場合は、安全側として最も薄い層の重量を分母に置いた値を仮置きし、根拠を記録に残す方法があります。

分析でND(不検出)だった場合の書き方は、また別の論点です。検出限界以下なら「0」と書いていいのかにまとめました。

分母を確認する質問の文例

仕入先の回答に分母が書かれていないとき、次の一文を添えて返すと話が早くなります。

ご回答の含有率について、分母に取られた単位をご教示ください(部品全体/材質単位/表面処理層単位のいずれか)。RoHS指令の判定には均質材料単位の値が必要です。

濃度の数字だけを何度もやり取りするより、最初に単位を揃えるほうが往復が減ります。

製品全体の重量で割った値を仕入先が送ってきました。使えますか

そのままでは使えません。RoHS指令の判定には均質材料単位、REACH第33条の判定には成形品単位の値が必要です。製品全体で割った値は分母が大きすぎるため、閾値超過を見落とします。材質ごとの内訳を出し直してもらってください。

めっき層の重量が分からないときはどう計算しますか

めっき厚と処理面積と比重から概算する方法がありますが、誤差が大きくなります。実務では、めっき業者に処理条件(膜厚と処理面積)を確認し、そこから算出した値と算出根拠をセットで記録します。概算であることを記録に明記しておけば、後で精度を上げる余地が残ります。

カドミウムだけ0.01%なのはなぜですか

EU RoHS指令が制限10物質のうちカドミウムのみを0.01重量%(100 ppm)、残る9物質を0.1重量%(1,000 ppm)と定めているためです。桁が1つ違うので、他の物質と同じ感覚で見ると見落とします。カドミウムは表計算上も別列にしておくと安全です。

  • 閾値
  • 0.1%
  • 均質材料
  • 計算方法
  • REACH