SVHCが追加されると、調達や品質保証の担当者に同じ作業が降ってきます。公開のフォーラムで、こんな声を見かけました。
SVHCって発表されると、EUに年間1t出荷しているか否かの調査・集計をやらなきゃで、都度、手間なわけです
都度、手間。この一言に尽きます。しかもこの作業は本業の合間に入ってくるので、まとまった時間が取れません。
この記事は、追加の告知が出た日を1日として、時間割の形で動き方を並べたものです。ただし先に書いておくと、1日で終わるかどうかは当日の動き方ではほとんど決まりません。その前に何を持っているかで決まります。
1日で終わる会社と、1週間かかる会社の差
同じ追加に対応しても、終わる日が違います。差が出るのは事前に持っているものです。
| 持ち物 | 中身 | ない場合 |
|---|---|---|
| 品目と部位の一覧 | EU向け出荷品の品番、構成部位、部位の材質、仕入先 | 洗い出しだけで2〜3日 |
| 仕入先の連絡先一覧 | 会社名ではなく担当者名とメールアドレス | 窓口探しに半日〜1日 |
| 照会文面の雛形 | 社内承認済みのメール本文と回答様式 | 文面作成と社内確認に半日 |
| 前回の判断記録 | 前回の調査範囲、対象外とした理由、判断日 | 同じ調査をゼロからやり直す |
4点がそろっていれば当日の作業は絞り込みと照会だけになり、1日で片づきます。そろっていなければ、当日の大半が準備に消えます。準備の進め方はSVHC第36次はいつ来るのかの後半に書きました。
以下は4点がそろっている前提での時間割です。
午前9時から10時半:追加物質を特定し、用途の当たりをつける
最初にやるのは、何が追加されたのかを一次情報で確認することです。ECHAの候補リストのページと、CMPコンソーシアムの告知を見ます。SNSやまとめ記事の情報から始めると、物質名の表記ゆれで後の照合が狂います。
確認するのは4つです。
- 追加されたエントリーの正式名称
- CAS番号(物質群の場合は番号がないことがある)
- 公表日
- 追加後のエントリー総数
そのうえで、その物質が何に使われるものかを調べます。難燃剤なのか、可塑剤なのか、溶剤なのか、めっき薬品なのか。ここで用途の見当がつくと、次の絞り込みが一気に軽くなります。
用途が自社の製品分野とまったく重ならないこともあります。その場合でも「重ならないので対象外とした」という記録は残します。記録がないと、監査で「調べていない」と区別がつきません。
CAS番号がない物質群の扱い
物質群として追加されたエントリーには、CAS番号が振られていないことがあります。この場合、成分表との機械照合ができません。物質名と構造の説明で、仕入先に判断してもらう形になります。照会文面には、エントリーの正式名称をそのまま貼り付けてください。
午前10時半から12時:自社品目を絞り込む
品目と部位の一覧を開き、午前前半でつかんだ用途に該当しそうな部位に印をつけます。
| 用途の種類 | 疑う部位 | よくある材質 |
|---|---|---|
| 難燃剤 | 樹脂成形品、電線被覆、基板 | ABS、PBT、PVC、ガラスエポキシ |
| 可塑剤 | 軟質樹脂、パッキン、チューブ、電線被覆 | 軟質PVC、エラストマー |
| めっき・表面処理薬品 | ねじ、金具、コネクタ、シャーシ | 各種めっき層、化成処理層 |
| 溶剤・洗浄剤 | 塗装品、接着部、洗浄工程を通る部品 | 塗膜、接着剤層 |
| 顔料・安定剤 | 着色樹脂、塗料、インク、シール類 | 着色樹脂、塗膜、印刷層 |
この表は当たりをつけるためのもので、これに載っていない部位が対象外になるわけではありません。優先順位をつけるための道具として使ってください。
絞り込みの粒度は部位までです。品番までで止めると、仕入先に「この製品のどこかに入っていますか」という漠然とした質問を投げることになり、返信が遅くなります。「この部品のこのめっき層について」まで落とすと、返信が速くなります。
分母の取り方で判定が変わる部位は、この段階で印をつけておきます。薄いめっき層や塗膜は、部品全体で割ると薄まりますが、それは正しい取り方ではありません。0.1%の分母は何か。均質材料の切り方に例を並べています。
正午までに、照会先の一覧が出来上がっている状態を目指します。
午後1時から3時:仕入先へ一斉照会する
絞り込んだ範囲について、仕入先へまとめて照会します。1社ずつ文面を変えると時間が溶けるので、雛形に品番と部位を差し込む形にします。
文面の例を挙げます。
件名:【ご回答期限:○月○日】REACH候補リスト追加物質の含有確認のお願い
いつもお世話になっております。
○年○月○日付でREACH規則のSVHC候補リストに下記物質が追加されました。つきましては、貴社よりご納入いただいている下記品目について、含有の有無をご確認のうえご回答ください。
■ 対象物質 エントリー名称:(ECHAの表記をそのまま記載) CAS番号:(ない場合は「物質群のため番号なし」と記載)
■ 対象品目 品番:/部位:/材質:
■ ご回答いただきたい事項
- 対象部位における当該物質の含有の有無
- 含有する場合、その濃度(0.1重量%を超えるかどうかが分かる形で)
- 判定に用いた分母(部位単位か、部品全体か)
- 判定に用いた管理対象物質リストのバージョン
- ご回答日
■ ご回答期限 ○月○日(○)までにご返信をお願いいたします。期限までにご回答が難しい場合は、見込み時期をお知らせください。
■ 補足 本件は含有の有無を確認するもので、含有していること自体が取引に影響するものではありません。正確な情報をいただくことを優先しております。
最後の補足の一文を入れると、回答の質が変わります。これがないと、仕入先側が「含有ありと答えると切られる」と考えて、確認せずに含有なしと返してくることがあります。
送る前に、返信先と期限が入っているかだけ確認してください。この2つが抜けているメールは、返ってきません。期限を過ぎた場合の督促は返ってこない調査依頼の督促テンプレート3段階の文面をそのまま使えます。
一斉送信のときの注意
宛先を一斉送信にすると、他社の社名が見えてしまいます。取引先の構成は機微な情報なので、BCCにするか、1社ずつ送る形にしてください。差し込み送信の機能を使えば、1社ずつでも作業量はほとんど変わりません。
午後3時から5時:記録を残し、未回答を追う
照会を出し終えたら、その日のうちに記録を作ります。回答が返ってくる前に記録の枠を作っておくのがコツです。返ってきてから作ろうとすると、いつまでも作られません。
| 項目 | 記入内容 | 埋まるタイミング |
|---|---|---|
| 追加の公表日 | ECHAの公表日 | 午前 |
| 対象物質 | エントリー名称とCAS番号 | 午前 |
| 用途の当たり | 調べた用途と、判断の根拠 | 午前 |
| 調査対象とした品目・部位 | 品番と部位の一覧 | 午前 |
| 対象外とした範囲と理由 | 用途が重ならない等 | 午前 |
| 照会先 | 会社名、担当者、送信日、期限 | 午後 |
| 回答状況 | 未回答・回答済・保留 | 回答受領後 |
| 結論 | 該当あり・なし・保留 | 全回答受領後 |
| 判断日と判断者 | 役職で記録する | 結論確定後 |
当日の終わりに「結論」以外がすべて埋まっていれば、その日の作業は成功です。結論は回答が揃ってからで構いません。
対象外とした範囲と理由の行が、次回いちばん効きます。次に追加があったとき、この行を読むだけで同じ検討を飛ばせます。判断の記録に何を残すかは遵法判断は誰がするのか、という最大の誤解にも書きました。
「EUに年間1トン」の話について
冒頭の読者の声には、年間1トンという数量基準が出てきます。REACHには数量を基準とする届出の仕組みがあり、それに伴う集計作業が発生するという趣旨です。
この数量基準を伴う届出の適用条件について、本サイトでは確認が取れていません。自社が該当するかどうかは、EU側の輸入者または専門家に確認してください。
未確認
成形品中のSVHCに関する数量基準(年間トン数)を伴う届出義務の適用条件は、2026年9月時点で本サイトでは未確認です。本記事の手順は、第33条の情報伝達義務に対応するための影響調査を前提としています。
ただし実務としては、数量の集計も同じ一覧から取れるようにしておくと二度手間が防げます。品目と部位の一覧に、仕向地とEU向けの年間出荷数量の列を足しておくだけです。
翌日以降にやること
当日で終わるのは照会を出すところまでです。回答が揃うまでの動き方も決めておきます。
- 期限の2日前に、未回答先へ一次督促を出す
- 期限当日に未回答なら、電話で担当者に直接あたる
- それでも出ない場合、不使用証明書での代替か、分析での確認かを選ぶ
- 全回答が揃ったら、判断者が結論を出し、判断日を記録する
3の分析は費用がかかります。SVHC全項目は19.5万円から24万円程度(2026年9月時点・税抜・1検体あたり)というのが実勢です。安易に走る前に、まず督促を尽くしてください。相場の詳細は分析費用の相場(RoHS・SVHC・PFAS/2026年実勢)にあります。
追加された物質そのものの最新情報はSVHC候補リストの最新状況に、候補リスト収載が何を意味するのかはREACH規則を実務目線でわかりやすくにまとめています。
この記事で触れた品目一覧の様式、照会メールの文面、判断記録の様式は配布資料にひな形を置いています。
追加された当日に、すぐ調査を始めないといけませんか
即日である必要はありません。ただし早く着手するほど選択肢が残ります。仕入先の回答には数週間かかることがあり、期限が迫ってから動くと分析に頼るしかなくなります。まず用途の当たりをつけて、自社に関係がありそうかどうかだけでもその日に見ておくと、以降の段取りが立ちます。
仕入先から期限までに回答が来ない場合、どうしますか
段階を踏みます。期限の2日前に一次督促、期限当日に電話、それでも出ない場合は不使用証明書での代替か分析での確認を検討します。督促のたびに送信日を記録に残してください。回答が得られないまま出荷する場合は、その部位について判断を保留していることを取引先に明示するほうが安全です。
対象外とした品目の記録も残す必要がありますか
残してください。調べて対象外と判断したのか、そもそも見ていないのかを、あとから区別できなくなります。用途が自社の製品分野と重ならないという理由でも、それを書いておけば記録になります。次に追加があったときの作業量も、この記録があるかどうかで変わります。