取引先からchemSHERPAのデータを求められたとき、対象品番の一覧に製品を包んでいる袋や、出荷用の段ボールまで含めるべきか迷うことがあります。担当者から見れば、製品も包装材も同じ「送っているもの」なので、区別する理由が見えにくいのは自然です。
結論を先に書きます。chemSHERPAは成形品と化学品の情報伝達スキームで、包装材は制度の対象物として想定されていません。ただし、包装材そのものに義務が無いわけではなく、別の制度であるEU包装規則(PPWR)が2026年8月12日から適用されています。対象が違うので、混ぜて扱うと双方とも中途半端になります。
chemSHERPAが対象にしているもの
chemSHERPAはchemSHERPA-AI(成形品用、拡張子.shai)とchemSHERPA-CI(化学品用、拡張子.shci)の2種類で構成されています。AIは製品を構成する部品や材料の含有物質情報と遵法判断情報を、CIは塗料・インク・樹脂・はんだといった化学品そのものの成分情報を伝達する仕組みです。管理対象物質リストはLR01からLR08までの法規制物質とIC01・IC02の業界要求物質で構成され、収載数は約8,000物質です。
このリストと入力様式は、あくまで製品を構成する部材や、製品に使われる化学品を前提に設計されています。輸送や保管のための包装材を主対象として組み込んだ様式には、いまのところなっていません。
そのため「袋のchemSHERPA対応をお願いします」という依頼を受けたとき、実際には次の三つのいずれかが起きています。
| パターン | 実際の状況 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 包装材ベンダー独自の説明 | ベンダーが自社の資材について、chemSHERPAの様式を流用して回答している | 様式を借りているだけで、制度上の必須要件ではない |
| 製品に同梱される部材との混同 | 製品に組み込まれる緩衝材やパッキンを、包装材と同じ扱いで聞かれている | 製品を構成する部材ならchemSHERPAの対象になり得る |
| PPWR対応の依頼をchemSHERPAという言葉で呼んでいる | 依頼元がPPWRという名称を使わず「化学物質の書類」とだけ伝えている | 実体はPPWRのDoC・技術文書に関する依頼 |
依頼文だけでは、この三つを見分けられないことがあります。依頼元に「対象は製品を構成する部材か、それとも包装・梱包材か」を確認するのが最短です。
PPWRという別の制度
EU包装規則(PPWR、Regulation (EU) 2025/40)は、旧包装指令94/62/ECを置き換える形で2026年8月12日に適用が始まりました。対象は包装材そのもので、単位も成形品とは違います。包装のSKUごと、重量ごとに、リサイクル可能性・有害物質の上限・食品接触時のPFAS制限・材質記号ピクトグラムの表示・適合宣言書(DoC)と技術文書の作成保持が求められます。
chemSHERPAのデータモデルには、包装の空隙率や、材質記号ピクトグラム、再生材の含有率といった項目が存在しません。これはchemSHERPAが不十分だからではなく、そもそも対象物が違うためです。取引先から包装材についての要求が来た場合、それはchemSHERPAではなくPPWRに基づく依頼である可能性を最初に疑ってください。
初日にやることは取引先から「PPWR対応の書類を出せ」と言われた初日にやることにまとめています。制度そのものの適用時期はPPWRはいつから何が義務になったのかを確認してください。
読者が半分入れ替わる
chemSHERPAの実務は主に品質保証と調達が担っています。一方でPPWRは、包装の設計・購買・物流部門が関わる場面が増えます。同じ会社の中でも、chemSHERPAの窓口とPPWRの窓口が違う人になっていることが珍しくありません。
社内で「化学物質の担当だから」という理由だけでPPWRの対応まで抱え込むと、包装設計側が持っている情報(素材構成、重量、リサイクル設計の有無)に手が届かず、時間だけが過ぎることがあります。早い段階で、包装の仕様書や調達の窓口と接点を作ることが実務上の近道です。
日本国内には容器包装リサイクル法という別の制度もありますが、識別表示が中心で、DoCや技術文書、リサイクル可能性等級という概念を持ちません。「国内の容リ法には対応済みだから大丈夫」という判断は、PPWRの文脈では成立しません。この違いは容器包装リサイクル法とPPWRは何が違うのかで扱います。
なぜ標準化されていないのか
包装材ベンダーが個別にchemSHERPAの様式を流用して回答している状況は、業界としての取り決めがまだ無いことを示しています。chemSHERPA自体はJAMPからCMPコンソーシアムへの改組を経てもなお、成形品と化学品という対象の枠組みは変わっていません。物質リストの改訂も、対象範囲を包装材へ広げる方向では進んでいません。
一方でPPWRは制定から日が浅く、日本語の実務情報が少ない状態です。JETROが2026年7月31日に公開した記事では、在独日系企業へのヒアリングとして「技術文書やDoC作成のための情報入手に努めている段階」「輸入元メーカーは鋭意対応中が多く、準備できている企業は数社のみ」という声を伝えています。制度が新しいために、包装材ベンダー側も何を、どの形式で答えればよいか手探りの段階にあることが背景にあります。
この状況で自社がとれる現実的な対応は、chemSHERPAとPPWRを同じ様式で処理しようとせず、対象物ごとに別の窓口・別の様式で管理することです。無理に一本化しようとすると、どちらの制度の要求も満たさない資料ができあがります。
社内の管理台帳を分けておく
含有化学物質の管理台帳を作っている会社であれば、包装材の欄を別立てにしておくことをおすすめします。品番・仕入先・使用可否といった台帳の骨格は共通でも、chemSHERPAの管理対象物質リストとPPWRの要求項目(材質構成・重量・再生材率・PFAS試験成績書の有無)は別の列になります。
台帳を分けずに1枚のシートへ無理に押し込むと、監査や取引先審査のときに「この列は何のためにあるのか」を説明できなくなります。台帳の設計自体は管理対象範囲に包装材を入れるか(Excel台帳の設計)で扱っています。
まず確認すること
依頼を受けたら、次の3点をこの順番で確認します。
- 依頼の対象は製品を構成する部材か、包装・梱包材か
- 包装・梱包材であれば、その製品はEU向けに出荷されるか、あるいはEU向け製品に同梱されるか
- 依頼元が使っている言葉(chemSHERPA、PPWR、化学物質調査など)と、実際に求めている情報が一致しているか
この3点が整理できれば、chemSHERPAの通常フローで処理するのか、PPWRの対応フローに乗せるのかが決まります。両方が必要になる場合もありますが、混ぜて1つの依頼として処理しようとすると、どちらの様式にも合わない中途半端な回答になりがちです。
包装材の情報もchemSHERPAの様式に入力してよいですか
様式自体は入力を拒否しません。ただし管理対象物質リストは成形品・化学品を前提に設計されているため、包装材特有の項目(空隙率、材質記号、再生材率など)は表現できません。取引先がPPWR対応の情報を求めている場合、chemSHERPAの様式では要件を満たせないことを伝えたほうが手戻りが少なくなります。
緩衝材やパッキンのように製品に同梱される部材はどちらの扱いですか
製品を構成する部材として出荷され、廃棄時まで製品と一体で扱われるものはchemSHERPAの対象になり得ます。一方、輸送のためだけに使われ、荷受け後に廃棄される外装や梱包材はPPWRの対象です。判断に迷う場合は、その部材が製品の機能に関わるか、輸送のためだけのものかで区別してください。
取引先が「chemSHERPA」という言葉だけで包装材の情報を求めてきました
言葉の使い方が正確でない依頼は珍しくありません。まず「対象は製品本体か包装材か」「求めている情報は含有物質か、リサイクル可能性や材質表示か」を質問し、実体がPPWR対応の依頼であれば、その旨を確認してから作業に入ってください。